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藍染め

郡上八幡城のふもとに広がる城下町には、400年余の歴史が刻まれた趣ある並みが広がり、この城下町ができるのをきっかけに整備された水路が、今も縦へ横へと街を縫うように巡っています。

心地のよいせせらぎの音に耳を傾けながら歩いていくと、藍染の暖簾がかかった「渡辺染物店」に到着しました。

今回の発酵旅でこちらを訪問するきっかけとなったのが、写真の「渡辺染物店」で作っていただいた半纏です。夫は日々この半纏を身につけて仕事をしています。世の中の麹屋は、由緒正しき何百年の歴史を持っていることが多いのに対し、夫は珍しくも麹屋1代目。しかも自他共に認めるラフなキャラ。そんな夫を凛とした風格に仕立てる魔法のアイテムこそが、この「渡辺染物店」の半纏。袖を通せば、キリッとひきしまった深い藍色に包まれ、代々続く麹屋の当主のような貫禄あるオーラを放ちだすのです!

そして、あまり知られていませんが、実は藍染も「発酵」なんですよ!藍の葉に水をかけて発酵・熟成させた染料「蒅(すくも)」を、再び発酵させて染液に。染液の発酵が弱くなると色付きも弱くなるため、1回布を染液に浸けたら約3日休ませるなど、微生物に寄り添いながら染めていくのが伝統的な藍染なのです。

藍も発酵!郡上本染01
藍も発酵!郡上本染02

今回の発酵旅でこちらを訪問するきっかけとなったのが、写真の「渡辺染物店」で作っていただいた半纏です。

藍も発酵!郡上本染03

夫は日々この半纏を身につけて仕事をしています。世の中の麹屋は、由緒正しき何百年の歴史を持っていることが多いのに対し、夫は珍しくも麹屋1代目。しかも自他共に認めるラフなキャラ。そんな夫を凛とした風格に仕立てる魔法のアイテムこそが、この「渡辺染物店」の半纏。袖を通せば、キリッとひきしまった深い藍色に包まれ、代々続く麹屋の当主のような貫禄あるオーラを放ちだすのです!

藍も発酵!郡上本染04
藍も発酵!郡上本染05

そして、あまり知られていませんが、実は藍染も「発酵」なんですよ!藍の葉に水をかけて発酵・熟成させた染料「蒅(すくも)」を、再び発酵させて染液に。染液の発酵が弱くなると色付きも弱くなるため、1回布を染液に浸けたら約3日休ませるなど、微生物に寄り添いながら染めていくのが伝統的な藍染なのです。

いくつもの山を越えてきた美しく豊かな水と、人の技術の融合が、
美しい色を生む。

藍も発酵!郡上本染06

驚いたことに、扉から一歩入ったその足元に、染める甕がずらりと並んでいました。こんなに作業場と入口が近いのはなぜなのだろう?と不思議に思っていましたが、染める様子を見させていただき、すぐに納得しました。染めてくださったのは、郡上市の重要無形文化財に指定されている15代店主の渡辺一吉さん。

藍も発酵!郡上本染07
藍も発酵!郡上本染08

「蒅(すくも)は初め茶色をしていて、発酵が進むと『藍の花』ができ、「染まりますよ」というサインになる。」布を抜き取ってゆっくりと甕の中の染液に浸す。甕から引き上げ、棒に染めた布をかけて干する。その一つ一つの所作がまるで日本舞踊のように美しく、息を飲んで見入りました。何度も染液に浸しては乾かした後、「では、洗うので外へ」と渡辺さん。外?と、予想していなかった展開にきょとんとしながら外に出ると、渡辺さんは店舗の前にある、細い水路にゆっくりと布を浸し、ゆらりゆらりと洗っていきました。

藍も発酵!郡上本染09
藍も発酵!郡上本染10

「先ほどまでは空気中の酸素に反応して青くなっていました。そしてさらに水の中で泳がせることで、生地の奥の奥まで水中の酸素と反応させることができるのです。特にいくつもの山を越えてきたこの水は、冷たく水中の酸素量が多いので発色が良いのです」と、渡辺さん。美しく豊かな水路があるから美しい藍染が生まれるのか! そして、だから入口のそばに染め場があったのだと、一気に合点が行き、胸が熱くなりました。

技は大切に受け継がれ、
藍染の表現の幅は日々進化していく

染め作業を終えた渡辺さんから、改まってお話を伺いました。なんと渡辺さんは、「柄を考える」「もち米の糊を作る」「糊を塗る」「色を塗る」「染める」「水路で糊を落とす」「天日干し」など、多くの染屋では分業しているこれらの工程を、珍しくもすべてご自身で行なっているそう。だからこそ想いが詰まった逸品に仕上がります。

藍も発酵!郡上本染11

「渡辺染物店」の店舗には、このような手仕事の温もりが伝わる染物がずらり。かっこいいタペストリーにのれん、半纏や浴衣に加え、洋服やショール、帆布バッグのようなモダンなアイテムまで揃っています。印刷したものや、化学染料で染めたものより、ぐっと奥ゆかしい風合いがあり、この服を身にまとったら一目置かれそうだなと、あれもこれも欲しくなります。

藍も発酵!郡上本染12
藍も発酵!郡上本染13

このように幅広いラインナップや、表現方法があるのは、渡辺染物店が伝統を大切に受け継ぎながらも時代に応じた進化を遂げているから。岐阜県の重要無形文化財に指定された父・菱屋安平(渡辺庄吉)さんは、芸術性・デザイン性を高めたのれんやタペストリーなどを製作し、あとを継いだ現店主・渡辺一吉さんも、カバンやハンカチなどの小物を制作することで、一般の人にも使ってもらえるようにし、さらに表現する色の幅も広げています。

最近は、店頭で行う染め体験も人気だそう。ぜひ渡辺染物店で商品を手に取ったり、実際に染めてみたりして、郡上の伝統、文化、手仕事、そして自然の恵みを感じてみてください。心豊かな時間になりますよ。

藍も発酵!郡上本染01 藍も発酵!郡上本染04 藍も発酵!郡上本染06 藍も発酵!郡上本染08 藍も発酵!郡上本染10 藍も発酵!郡上本染12
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miyamotoプロフィール画像

miyamoto

自然の恵みに謙虚に向き合う「農家&麹屋」の夫と、伝えることを追求する「醤油ソムリエール&デザイナー」の嫁が、地に根ざした日本の「食文化」を100年後の未来に繋げるべく結成したユニット。発酵食を裏で支える農業・水産業・林業にも寄り添いながら日本の食の底上げを計る。

夫:宮本貴史

2016年に麹業界に新規参入した「麹ベンチャー」。無農薬・無化学肥料で大豆や米を育てて味噌仕込みをするうちに、発酵の世界に魅せられ、愛知県西尾市西幡豆町で麹屋を営み始める。年間1000人以上の人を対象に「味噌・醤油仕込みの会」も開催。

嫁:黒島(宮本)慶子

醤油、オリーブオイルソムリエ&デザイナー。小豆島の醤油の町に生まれ、蔵人たちと共に育つ。小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、デザイン、執筆、レシピ作りなどを通じて、人やコトを結びつけ続けている。玄光社から『醤油本』を出版。

Photographs by miyamoto