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郡上への旅をより
たのしむための本
その1

文:黒田杏子(ON READING)
BOOKS&TRAVEL郡上への旅をよりたのしむための本その1

皆さんこんにちは!私は普段、愛知県名古屋市でON READINGという本屋を営んでいます。郡上市白鳥町には父方の祖父母の家があり、幼いころから多くの時間を過ごした「ふるさと」として、郡上市に親しみを持っています。

美しい山と川に囲まれ、独自の歴史や文化を持つ郡上市。このコラムでは、そんな郡上の各地に魅せられた人々が書いた本をご紹介します。本を片手に、ぜひ郡上を旅してみてください!。

街道をゆく 4 郡上・白川街道、堺・紀州街道ほか 司馬遼太郎 / 朝日新聞出版(朝日文庫)

街道をゆく 4
郡上・白川街道、堺・紀州街道ほか

司馬遼太郎/朝日新聞出版(朝日文庫)

『街道をゆく』は、歴史小説家、司馬遼太郎が25年にわたって連載を続けた紀行文シリーズ。本書に収録されている「郡上・白川街道と越中諸道」では、岐阜羽島から飛騨を経由して富山までを旅した様子が綴られています。

この旅では、著者が「日本の山城の典型のひとつ」とする郡上八幡城に立ち寄り、この城ができるよりも前の、鎌倉~室町期にこの地をおさめていた東(とう)氏の9代目当主・東常縁に想いを馳せています。古今伝授の祖として知られる歌人でもあった常縁は留守中に城を奪われたものの、和歌10首を敵に贈り、城と領地を取り返したという逸話がのこされています。町と町をつなぐ道をたどって旅をすることは、空間的な移動だけでなくその土地の持つ記憶に潜っていく時間の移動でもあることを感じさせてくれます。司馬遼太郎の歩みに想像を重ねながら、八幡エリア「郡上八幡城」や、大和エリア「古今伝授の里フィールドミュージアム」へ旅してみてはいかがでしょう?

東海の円空を歩く 長谷川 公茂/風媒社

東海の円空を歩く

長谷川 公茂/風媒社

江戸時代前期に、全国を旅しながら仏像を彫っていた修験僧、円空。ダイナミックで素朴な造形とその顔に浮かぶ微笑は、今なお多くの人を惹きつけてやみません。また郡上市美並町は円空が修験道と木仏制作をはじめたきっかけの場所で、星宮神社の別当寺である粥川寺で32歳の時に出家したとされているなど、ゆかりが深い土地です。

本書は、現存が確認されている円空仏のうち9割がある東海地方の円空仏を訪ねた一冊で、郡上市美並町の様々な神社仏閣で安置されている円空仏や個人蔵で普段は公開されていない像も数多く掲載されているのもうれしいところ。なお、現在では星宮神社の境内にある「美並ふるさと館」にて、初期から晩年期にかけて彫られた約95体の円空仏を拝観することができます。

今日も盆踊り 小野和哉・かとうちあき/タバブックス

今日も盆踊り

小野和哉・かとうちあき/タバブックス

「郡上」といえば盆踊り!と言われることもあるくらい、全国の踊り好きの中でも知名度が高く、お盆の徹夜おどり期間には全国からたくさんの方が郡上に訪れています。かく言う私も、幼いころから白鳥おどりに通っており、シーズンになると今年はいつ行けるかな、とうずうずしてくる、おどり好きの一人です。

本書は、無類の盆踊り好きの二人が、秘境で踊り継がれている盆踊り、奇祭、復活踊りに現代音頭など、全国の盆踊りを実際に踊り歩いた記録。郡上では、一泊二日で白鳥おどり→白鳥の拝殿おどり→郡上おどりをハシゴをするというかなりハードな計画を駆け抜けた彼らのレポートは、未体験の方はもちろん、なじみの方にとっても発見があるはず。読んだらきっと踊りたくなりますよ。

かくれ里 白洲正子/新潮社

かくれ里

白洲正子/新潮社

能や工芸に造形が深い随筆家・白洲正子は本書に収録されているエッセイ「長滝 白山神社」で、郡上市の伝統工芸品である郡上紬の再興に尽力し、のちに人間国宝となった宗広力三さんとの出会いや親交と、彼を訪ねた際に立ち寄った、郡上市白鳥町の長滝白山神社について書いています。

著者は、長滝白山神社宝物館で所蔵されている「延命冠者」の面に注目し、これは白山信仰のはじめの神様で、蚕と織物の守り神である菊理比売(くくりひめ)を表しており、今でも毎年1月6日に行われる神事「花奪祭」とも関係しているのではないかと推測しています。天井から吊り下げられた花笠を奪い合うこの祭りは千年以上の歴史があるとされ、やはり豊蚕、豊作を願うものでした。著者が「生活を離れて信仰はない。」というように、神仏習合や明治の廃仏毀釈により形を変えても、民衆の心は常に、暮らしと共にある神様と深い絆で結ばれているのだと思います。

郡上への旅をよりたのしむための本 ONREADINGプロフィール画像

黒田杏子(ON READING)

愛知県名古屋市の書店&ギャラリー ON READINGを営む。出版レーベル ELVIS PRESSも運営。店の知名度は今や全国的で、海外のブックフェアなどにも出店。20代〜30代の支持を多く集める、名古屋を代表するカルチャー的キーパーソン。郡上白鳥町には父方の祖父母の家があり、郡上は第二の故郷。白鳥おどりにも通うおどり好き。

Photographs by ON READING