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郡上市 石徹白地区 「釣り人の聖地」で育つ子どもたちが学ぶ

郡上市白鳥町の峠をぐんぐん登った先、標高約700m。人口約200人の小さな集落「石徹白(いとしろ)」は、白山信仰にゆかりのある里として、古くからの暮らしが今も息づく場所です。集落の入り口には日本の滝100選や岐阜県名水50選に選ばれた「阿弥陀ヶ滝」があり、集落から少し奥へ進むと、国指定特別天然記念物に指定されている「石徹白大杉」がそびえ立ちます。偉大な自然と文化に魅せられ、近年は移住者も増えています。

また、渓流釣りに適した豊かな環境と、全国に先駆けて取り入れたキャッチ&リリースの取り組みなどから「釣り人の聖地」としても知られています。毎年多くのアングラーが訪れ、自然と調和する釣りのあり方を楽しんでいます。

そんな釣りの聖地の小学校では、子どもたちがフライフィッシングを学ぶ授業があるのだとか。しかも、講師は「釣り好きおっちゃん」たち。
実際の授業を参観させていただきました!

フライフィッシングとは——
カゲロウなどの水棲昆虫を模した非常に軽い「毛ばり(フライ)」を、釣り糸の重みを利用して飛ばし、魚を誘い出す釣り方。
毛ばりは、魚の口を引っ掛けるためのフックに、糸や羽毛などの素材を巻きつけ、魚のエサである虫に似せて作ります(タイイング)。これを作るためには魚の生態だけでなく、魚が住む周りの自然環境、生息している鳥や虫についても知る必要があるため奥が深く、難しいと言われています。自然や生態系、天候などのさまざまな知識と、本能的な感覚などを複合的に使う遊びだからこそ、奥が深くて面白く、フライヤーを虜にさせます。

未来に繋げる『本気の遊び』フライフィッシングクラブ

フライフィッシングクラブとは、石徹白小学校でフライフィッシングを教える団体のこと。始まりは2009年。当初の先生が生徒にエサ釣りを教えていましたが、なかなか釣れず、地元の漁業組合に相談したことがはじまりだったそうです。これがきっかけとなり、有志のおっちゃんたちが集まりました。

講師は、地元の釣り好きのおっちゃんたちや県外の人も含めて平均年齢は60歳超え!長年の経験をもとに、釣りの魅力と自然の大切さを子どもたちに伝えています。この日はこの7人で学生たちに指導。

授業で学ぶ。自然で【遊ぶこと】と【守ること】

フライフィッシングクラブ代表 松山さん

全校生徒17人の石徹白小学校では、年間を通して、フライフィッシングや産卵床づくり、ヤマメの稚魚放流の授業が行われています。
1〜3年生は発眼卵の飼育から稚魚放流を担当、4〜6年生はフライフィッシングを。それぞれの学年が、自分たちの手で自然の循環を感じながら学んでいます。

この日の全校合同授業は、稚魚放流から始まりました。12月の終わりにいただいた発眼卵。1月中旬に孵化してから約8ヶ月、稚魚は大きいもので6cmほどに。
「ばいばーい!」と元気に放流する児童。名残惜しそうに稚魚が見えなくなるまで見守る児童。一人ひとりが魚の命、自然の命に向き合う瞬間でした。

「今放流した稚魚が、もっと大きくなった姿が見れるかもしれないから、また川に遊びに来てね」
と、優しく語りかける講師の釣り好きおっちゃん松山さん。

フライフィッシングの授業では、“フライフィッシングとは何か”を知る座学やマイ毛ばりづくりの練習、そして夏になると川での実践授業も行われます。秋口には産卵床をつくり、冬には翌年に向けたヤマメの発眼卵の飼育を始めます。
今日は楽しいフライフィッシング実践授業!

担任の先生曰く、子どもたちはこの授業をいつも楽しみにしており、しかも釣り好きおっちゃんたちに会えることが嬉しいそうです。
釣り好きのおっちゃんに釣りの仕方や毛ばりの作り方、魚の話を聞くと、それはそれは楽しそうに教えてくれます。そんな楽しそうな顔をみて子どもたちは気兼ねなくどんどん質問攻め!普段から釣りをする子は、放課後になると釣れた魚の話で盛り上がっていました。

「魚のことだけ知ってても釣れんの。その場所にいる虫や鳥、木々の植生を観察して考える。フライフィッシングってのは“自然を見る力”が必要な釣り。だから面白い、一生勉強や!」

講師のおっちゃん達は口を揃えてそう語り、答えが見つからない、フライフィッシングの魅力がこちらにもひしひしと伝わってきました。

好きだからこそ伝えたい釣りの楽しさ、自然の豊かさ

フライフィッシングクラブの講師である釣り好きおっちゃんたちは、全員ボランティア。
「自分たちも楽しいし、釣りが好きだから釣りを続けられるこの環境が続いてほしい。だから、次の世代にもこの楽しさごと伝えたい」
そんな気持ちで16年もの間、子どもたちに釣りを教え続けています。

子ども達に、どんな想いで関わっているかをフライフィッシングクラブ代表の松山さんに尋ねました。
「ただ釣りが好きやもんで。子どもたちにもこの楽しさを知ってほしい。今はわからん子もおると思うけど、大人になって“あの時の釣り、楽しかったな”って思い出してくれたらええな。」
と少し照れくさそうに笑いながら教えてくれました。

長く釣りを楽しむためには、自然とともにあること。そして、“本気で遊ぶ大人”の姿を見せることこそが、子どもたちに一番伝わる環境教育なのかもしれませんね。

まとめ

石徹白小学校のフライフィッシング授業は、単なる「釣り体験」ではありません。遊ぶためにいつの間にか自然と向き合い、いつの間にかその遊びも、この遊べる環境も好きになっている。好きなことを続けるために「自然環境を守る」ことを学ぶ。ここでの学びは机上の空論にはなりません。本気で楽しそうに遊んでいる大人から教わることで、子どもたちにも伝わるものがあり、彼ら自身が熱源になって行動する人になっていくのだと感じました。

本気で遊ぶ大人はかっこいい!!そう思えるおっちゃんたちに出逢えた一日でした。


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