生きる本質と向き合う【冬山ハンティング同行&解体・猟師飯ツアー】体験レポ イメージ

「郡上で生きる人 」vol. 1 生きる本質と向き合う【冬山ハンティング同行&解体・猟師飯ツアー】体験レポ

あなたが山や川に行く理由は?
「癒しをもとめて」「キャンプをするため」「非日常を感じたい」「アウトドアギアを楽しむため」きっと様々な気持ちで山へ向かうだろう。私も安らぎを求め山に行く一人である。

今回のツアーは、通常ツアーとは一味違う『本物』を味わうツアーだ。実際に猟師と一緒に獲物を狩り、そして、獲った獲物を食べるところまでも自らの手で行う。
昨今、「ジビエ」という言葉をよく耳にするが、“流行りだから”ではない。本来の人の暮らしを知り、本気の食料獲得のための狩猟だ。山や川と人の距離が近い郡上だからこそできる、本物に触れるツアーを体験してきた。

猟師の日常

「今朝罠で獲れた鹿です。まずは解体しましょうか」

早速、予想外の展開から始まった【冬山ハンティング同行&解体・猟師飯ツアー】。
猟師のリアルはスケジュール通りにはいかない…

猟師とは、野生動物を捕獲する生業。ただ、全国的には趣味でハンティングを行う人がほとんどで、60歳以上が約6割を占めるなど、高齢化が進む一方(2020年データ)。そんな中、郡上では若手の猟師が増えてきている。本ツアーのガイドを務めるこのお二人もその代表。

安田さん

猪鹿庁合同会社代表の安田大介さん。里山保全組織『猪鹿庁』として狩猟講座・ワークショップを数多く実施し、狩猟の魅力の伝達や若手猟師を増やすための企画・運営を行っている。自身は、半猟半Xの生き方を実践中。狩猟やキャンプ場経営などに加え、近年は『狩猟生活』などの書籍で執筆。

松川さん

Rism代表の松川哲也さん。
出身・在住の白鳥町六ノ里にて、夫婦でカフェを経営。元消防官で救急救命士。地域の獣害問題や猟師の後継者不足を知り、猟師に。地域の課題解決と資源活用を組み合わせた生活を模索、実践し、フォトグラファー、ライターとしても活動。

 

この日の参加者は、最年少は18歳、最年長は60代、猟歴の有無もさまざま。狩猟はおろか、アウトドア全般に慣れていない女性の参加者もおり、ガイドのお二人曰く、過去のツアーでもここまで動機や年齢がバラバラなのは初めてだという。

現地へ向かう前に、山の歩き方やスマホ地図アプリの見方、遭難した時の対処方法など、注意事項を確認する。その中でも狩猟のリスクマネジメントについての話では、楽しみだけでない”緊張感”が漂っていた。もちろん、救急救命士の松川さんと、アウトドアやサバイバル技術に精通した安田さんというガイドのお二人も安全面を配慮してくれるが、猟師のリアルは「自分の命は自分で守る」ことだ。

獲物を追う

山へ向かう

安全管理には、心構えだけでなく、必要な装備を備えておくことも欠かせない。服装は、体温調節をしやすいように脱ぎ着できるようなものに。この日は、まだ雪が残ることと雨が予想されていたので、レインウェアと長靴を仕込む。猟師は、雪がなくても普段からグリップ付きの長靴を使うそうだ。
また、食べ物や水も必須。遭難時の備えとしてはもちろんだが、狩猟中のエネルギー補充のためにも大切だ。今回のツアーでも約5時間山を歩き回るので、想像以上にエネルギーを消費する。

持ち物
・防水性とグリップがある長靴・体温調整できる服装
・作業用ゴム手袋 ・レインウェア ・ヘッドライト ・着替え ・替えの靴と靴下
・水500ml・軽食(あめ、サンドイッチ、など)

上記の個人の持ち物・装備に加え、ガイドの二人は非常用の救急グッズやファーストエイドに加え、緊急時のツェルトやサバイバルギアなども携帯していた。

持ち物よし。現地に着き、入山前に現地の地元の方に挨拶をすませる松川さん。食害や森林被害などの獣害に悩む地元の方いわく、「どんどん捕ってほしい。」とのことだ。次は地図アプリで自分の現在地とゴール地点を確認する。
安田さんを先頭に参加者が順に並び、最後尾に松川さん。一列に並んで獲物を探す。

狙うは鹿。
獲物に気づかれないように。こちらが先に気づくように。
視野を広く、耳をすまして…。

獲物の跡を追う

山に入って、5分もしないうちに発見したのは鹿のフン。地面の色と同化しており、安田さんが教えてくれなければ気づかなかったかもしれない。一度見つけると、「あ!ここにも!」「こっちは何箇所も!」と見えてきた。フンを見つけることで鹿の行動や暮らしが分かってくる。
さらに周りを注意深く見ていると、自分の頭の高さにある枝の皮が剥がれ、ツルツルになっている。これは鹿の食痕。足元には鹿の足跡がついていた。

「これだけ鹿がいた痕跡があるってことは、この先へ進むに連れ遭遇率も上がる。ここからはより慎重に進みましょう。」

安田さんの一言で、空気が一気に張り詰める。
見逃さないように全神経を研ぎ澄まし、足音もなるべく立てないように、まるで忍者のような歩みで進む。

進むにつれ、雪が深くなった。足を踏み出しても踏み出しても、雪に足を取られてなかなか進めない。どんどん削られる体力。疲労がにじむ参加者の姿に、ガイドのお二人は「こんなのまだまだだよ」と笑う。毎日のように山に入る猟師にとっては、このくらい序の口のようだ。

徐々にしんどくなってきて息もあがってきた頃合いに
「ここで休憩しましょう。ここなら多少声を出しても大丈夫です。」

安田さんの声に、思わずふぅ〜と緊張がとけた。ここまで休憩をはさみながら少しずつ少しずつ進んできたが、本当の猟ではこんなに足を止めることはないのだろう。

獲物を獲る

休憩を終え、
「この先カーブになっていて向こうが見えないでしょ?あっちもこちらを見えないから、鹿がいる可能性が高い。サイレントで行きましょう。」
そう安田さんが全員になげかけ、緊迫した空気の中進むと…

安田さんが走り出した!!!!

それを見ていた安田さんの後ろの参加者が、「鹿がいた!」とジェスチャーで指を差し、それを伝言ゲームのように最後尾の松川さんまで届ける。

小さめの鹿が谷へ逃げ込んでいくのが見えた。

松川さんが走り出し、すかさず銃を向ける。

ドーーーーン。

山中に鳴り響く銃声。全身に振動が伝わり、まるで体が痺れたようだ。

谷を覗くと、倒れ込む鹿の姿。
一発命中。

松川さんが鹿のもとに駆け寄り、血抜きをする。

冷静に処置する松川さんを見ながら、私は唖然とした。
今起こったことは現実か?映画のワンシーンを見ていたのか?、と。

後から安田さんも合流して分かったことだが、仕留めた鹿は1歳ほどの子鹿で、安田さんが追った鹿は親鹿だったそうだ。親鹿は、人間が追いにくい山の上の方へ逃げて捕まらず、子鹿は、経験の差からか、人間が追いやすい谷へ逃げてしまったそう。

血抜きを終えた鹿を引き上げる。斜面のキツい場所だったので、二人掛かりだ。

獲った鹿は帰りに運ぶため、一旦ここに置いていく。
引き上げた鹿は内臓を取り、なるべく鮮度を保つため腹に雪を入れて冷やす。(この鹿は販売用ではなく自家消費用としていただくそうだ。)

ここまできて、私はやっと「鹿を獲った」現実をじわじわと実感した。ただの好奇心だった私の気持ちは、山で命をいただく実感を得て、心の奥で何かが確かに変わった気がした。

さらに山を登っていくと、天気が徐々に雪に変わった。
「いい天気ですね!もう1頭獲れるかも!」
と嬉しそうな安田さんは、雪が降ると音が消え、鹿が人間の気配に気づきにくくなると教えてくれた。

ここからは、体力面から登るグループと下山するグループの二手に分かれて行動。
山頂に向かう間、鹿がこちらを威嚇する鳴き声が聞こえたが収穫はなく、拠点に戻った。

 獲物をいただく

拠点まで獲った鹿を運び、今度は食べるまでの作業だ。

解体

まずは解体。皮をはがし、枝肉の状態へ。今回捕獲した個体と、安田さん・松川さんが事前に捕獲していた個体を解体していく。
この作業は、肉の部分に毛など汚れが一切付かないよう衛生的に慎重かつ力も必要な作業。皮をはがすと同時に四肢と頭をはずす。

仕留め方によって内出血が起きている場所が違ったり、年齢によって肉のつき方が違う。
さらに雌鹿は身籠っていることもあるという。1頭1頭の生態系や違いまで感じられる瞬間だ。
ここではがした皮は、なめして敷物やカバンなどに利用する方法もあるそう。

精肉

気づいたらまわりは真っ暗に。参加者全員が時間を忘れるほど夢中になってた。

続いての工程は精肉。部位ごとに切り分けた枝肉を調理しやすい形に切っていく。いうなればスーパーなどでみるパックのお肉の状態だ。筋肉と筋肉の繋がりをみて、筋は削ぎ取る。
筋肉がどのようにして繋がっていて、どんな働きをしているのか。部位によって明確に肉質が違うことが興味深く、私はこの作業に夢中になった。

『いただく』とは

いよいよ鹿をいただく。
猟に出てからここに辿り着くまで約8時間。疲労と空腹で、参加者からは「はやく食べたい!」という気持ちが溢れ出ていた。

食事は、鹿の焼肉や希少部位の鹿ホルモンだけでなく、ローストディアや鹿麻婆豆腐、鹿肉ソーセージなど。鹿肉ミンチたっぷりの麻婆豆腐は特に人気であっという間に売り切れた。食事中は、猟師の生活について安田さんや松川さんの話を聞いたり、今日の猟で感じた参加者それぞれの感想やエピソードなど話し、和気藹々とした心安らぐ時間だった。猟の疲れが癒され、食事も進む。

スーパーに行けば、なんでも時期問わず手に入る世の中。便利で暮らしやすくはあるが、実際に獲った獲物を食べると手を合わせて『いただく』ということの意味を深く感じた。

 

このツアーでは、本物の猟に同行する体験を提供している。それだけではなく、この体験を通じて『生きる』ということの本質と向き合う経験を得ることができる。
「自分の命は自分で守る」「獲物を狩る」「命をいただく」
1日の中でずっと出てきたフレーズの中には、普段の生活で忘れかけていた大切な部分があった。

ここには作られた安全はない。

山に入ると、いつ死んでもおかしくない。正直、私は山をなめていたし、好奇心の方が先行していた。今回のツアーによって、自分の命に責任を持つことで、当たり前のようにいただいている命や、山に入れているこの状況を、心の底から感謝することができた気がする。

アウトドアは気軽に楽しめる素敵な体験だが、この自然の本質、そして『生きる』ということの本質を体験するとしないでは、楽しみ方が全く違うものになるのではないだろうか。

山や川と人里が近い貴重な土地の郡上。そして、人間が作った自然モドキではなく、ガチの自然への道を開いてくれている環境。こんな場所は世界中探してもそうそうない。


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